福岡地方裁判所 昭和44年(む)532号 決定 1969年6月25日
被疑者 内野英機
決 定
(被疑者氏名略)
右の者に対する売春防止法違反幇助被疑事件について、昭和四四年六月二一日福岡地方検察庁検察官古川純生がなした接見等に関する指定に対して、弁護人諫山博から右指定の取消を求める適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
福岡地方検察庁検察官古川純生が昭和四四年六月二一日なした別紙(略)記載の接見等に関する指定の処分中、弁護人または弁護人を選任できる者の依頼により弁護人となろうとする者に関する処分はこれを取消す。
理由
第一、準抗告申立の趣旨
主文同旨
第二、準抗告申立の理由要旨
被疑者内野英機は売春防止法違反幇助被疑事件の被疑者として勾留せられている者、申立人は右被疑者の弁護人であるところ、福岡地方検察庁検察官古川純生は右被疑者について昭和四四年六月二一日別紙記載の接見等に関する指定をなしたが、検察官の指定書がなければ弁護人または弁護人となろうとする者が被疑者に接見ができないとする法律上の理由はないのであり、従つて検察官古川純生の本件指定中、弁護人または弁護人となろうとする者に関する処分は違法であるので取消を求める。
第三、当裁判所の判断
一、本件記録によれば、被疑者は本件被疑事件について昭和四四年六月二〇日以来その身柄を福岡拘置支所に勾留せられ、かつ刑事訴訟法第八一条によつて接見等を禁止せられていること、福岡地方検察庁検察官古川純生は被疑者について昭和四四年六月二一日別紙記載のような指定をなしたことが明らかである。
二、ところで、刑事訴訟法第二〇七条、第八一条、第三九条によれば、被疑者に対し接見等を禁止する処分をなし得るのは裁判官だけであり、しかも裁判官と言えども被疑者と弁護人または弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下両者を併せて単に弁護人と略称する)との接見等に関しては何等制限し得ないのであつて、まして被疑者、弁護人とは相対立した立場にある検察官らが被疑者と弁護人との接見等を禁止し得るとする法的根拠は全く存しないのである。ただ検察官らは、「捜査のため必要があるとき」に「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限」しない限度において、弁護人の接見交通権に優先して被疑者の取調べなどをなすことができるため、その反射的効果として、被疑者と弁護人との接見等が制限を受け得るに過ぎないのであつて、検察官が捜査のための必要を理由に被疑者と弁護人との接見等について日時等を指定できるのも例外的な場合に限られると言うべきである。ところが、刑事訴訟法第三九条第三項の実際の運用においては、検察官が被疑者と弁護人との接見について指定をなすに際しては、ややもすると本件検察官がなしたように、検察官はまず所謂一般的指定書を発しておき、別に個々的に発する具体的指定書を持参する者に限つて、しかもその具体的指定書に指定された範囲内においてのみ接見等を許すという方法がとられている。しかしながらかくの如く検察官らは恰かも一般的に被疑者と弁護人との接見等を禁止することができ、弁護人はただ検察官らの特別の許可を受けた場合に、その範囲内で被疑者との接見交通ができるといつた現実の運用は、先に述べた刑事訴訟法の趣旨から到底是認できない。
三、なお、本件の如く検察官が単に所謂一般的指定をなしただけではいまだ刑事訴訟法第三九条第三項による指定とは言えず従つて同法第四三〇条第一項による不服申立の対象とはなり得ないとの見解も考えられるが、所謂一般的指定が実質的には一般的な接見等の禁止に他ならない実情に鑑みれば、右一般的指定自体は同法第三九条第三項による指定と実質的に差異はなく、しかも具体的な指定に対して不服申立を許す以上に救済の必要性も高いので、一般的指定自体を不服申立の対象とすることができないわけではないと考える。
四、以上の理由により、被疑者に対し福岡地方検察庁検察官古川純生が昭和四四年六月二一日になした本件指定は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者に関する部分において違法として取消すべきであるから、刑事訴訟法第四三〇条第一項により主文のとおり決定する。
(別紙略)